52 出ば出ろ
52 出ば出ろ
昔、宅部に円達院という法印さんがおりました。円達院は御朱印五石の格式ある氷川神社をお守りしている修験でした。
氷川神社は村山下貯水池の出来る前は、堰堤の取水塔に近い松や雑木の茂る山の上にありました。宅部の村から氷川神社の脇を登って大日堂、五十嵐墓地を通りおくまん様(熊野神社)へ続く道は、踏み跡のような細い道で、篠竹の生い茂る昼でも気味の悪い道でした。よそから宅部へ帰る円達院は、墓地やお堂のあるこの道を夜更けに一人で歩いていました。提灯を一つぶらさげた円達院は、ふと、もののけの気配を感じて脇差を抜きました。「出ば出ろ、宅部の円達院」と大声で叫びながら刀を右に左に振り廻して歩いたそうです。
出るなら出ろ、とは何とも勇ましいせりふですが余程怖かったのでしょう。氷川神社は熊野神社と合祀されて清水神社となりました。
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